日記

低クオリティの弁当、本の感想、ときどきDA PUMPについて

モルディブ

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モルディブに行きました。何をするでもなく過ごしていたので、ちょっとしたことを忘れないように書き留めておこうと思う。旅行先を検討中といった人の役には全然立たないと思います。

新婚旅行でモルディブに行きますと言うと、「どこの国の領土なのか」とよく聞かれたが、モルディブは一つの国家だ。インド南西の洋上にあり、2,000ほどの小島で構成される。「一島一リゾート」と説明されるが、リゾート施設は島ごとに作られている。そのため、滞在中はずっと小さな島の中で過ごすことになる。観光はほとんどできない。しかし何にも警戒することなく、我が物顔で島を歩き回り、気に入った場所でゴロゴロしたり、海やプールに浸かったり、空を眺めたりすることができる。ハネムーンと聞いて皆が連想する海上コテージがあるのも、この国だ。

温かくて海のきれいなところ、そして海上コテージがあれば国はどこでもいいかなと考えていた。モルディブはベタすぎるから、タイとかベトナムのリゾートも割安そうだし素敵なんじゃないかと思っていた、でも、意外と海上コテージがない。気候や海のコンディションの問題なのか、海上コテージに泊まれるリゾートがある国というのが、モルディブタヒチのほぼ二択だった。JTBやHIS経由だったからそうなだけで、自力で探せば東南アジアにも見つけることができるのかもしれないけれど。

乾期まっただ中の2月上旬、モルディブに向けて出発した。日本からの直行便がないため乗り継ぎの選択肢がいくつかあるが、私たちはシンガポール航空にした。羽田空港を0時近くに出発し、シンガポールで乗り換えた。

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シンガポールへの機内で、ハネムーンおめでとうというケーキとシャンパンが出された。入籍や結婚式と違い新婚旅行は公的なものでも周囲を巻き込むものでもないという感覚でいたので、公共交通機関からお祝いしてもらえるのが不思議な感じだった。旅行会社が伝えてくれていたのかな。ケーキは見た目以上においしかった。

モルディブへの到着時間が迫り、飛行機が高度を下げると、窓から真っ青な海が見える。晴れていることに安堵する。いよいよ着陸というときに、機体がスモッグのような薄い雲に包まれ、視界にもやがかかり、動揺する。どうやら海面近くはいつも薄曇りであるようだった。空を見上げると青い。

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空港で現地の言語(ディベヒ語)の表示を見かけたが、複雑な内容を伝えづらそうな文字だなと失礼なことだが勝手に思った。

出国すると翌日の正午近くになっていた。リゾート別にスタッフが待ち構えていて、次の乗り物に案内してくれる。空港から近いリゾートならスピードボート、遠ければ国内線や水上飛行機などに乗って、それぞれ目的地に向かう。

チェックインを済ませ、部屋の清掃が終わるまでレセプションで待っていた。気温は30℃前後だった。長袖のブラウスにジーンズ、スニーカーなどを身につけているから、暑い。日本ほどではないが多湿気味でもある。

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海はさすがに美しい。遠浅のラグーンの上に浮かぶ小島に泊まったため、ビーチに目をやれば現実味のない色が遠くまで続く。しかし、つい、沖縄の海のほうがきれいなんじゃないかと思ってしまった。たとえば、これまで見てきたモルディブの広告が虚偽だったとかいうわけではなく、モルディブの海は美しい。双方の透明度もさほど変わらないし、「きれい」が指す内容もあいまいだ。しかし帰国の日までこの印象が覆ることはなかった。沖縄のマリンブルーには奥深さがあるような気がする。

乗り継ぎで寄ったシンガポールチャンギ空港で、札幌行きの便を待つたくさんの外国人を見た。日本には北海道も沖縄もあり、あの狭い国土でそれは奇跡的なことだ。

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海上コテージに泊まって、朝起きたら海にダイブする」というすべてのモルディブ旅行者の夢は、案外実現しづらいものだった。想像以上に海が冷たい。小学校のプールの授業でやったように、まず足先、膝、おなか、と段階を追わないと海に入れない。でも、水温が高いとサンゴが死んでしまうから、私が寒いかどうかはどうでもいいことだ。

がんばって沖の方面へ進むと、視界が海と空だけになる瞬間が来た。遠浅の海なので実は足がついているし、ホテルからの指示でライフジャケットを着けているのだが、それでも人の関わるものから遠く離れて、自然に体を預けているような気分になれた。

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モルディブで見たもっとも美しいものは朝日と夕日だった。それに気がついてからは毎日、日の出と日没を見に出かけた。視界の大部分に水平線が走っており、そこに太陽が出入りする光景は初めて見たと思う。

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さざ波のひとつひとつに空の色が映るのが油絵みたいだった。いま思えばモネ(朝日)かシャガール(夕日)が近いように感じるが、そのときはゴッホを連想した。ゴッホと痴話喧嘩を起こしたゴーギャンタヒチに滞在していたことも連想した。ゴーギャンは「我々は」から始まる長い名前の絵しかすぐ思い出すことはできなかった。結局、モルディブともゴッホとも違うのだが、何か双方の間に確実な連関を見いだせたような気になった。

「杞憂」という言葉も連想した。子どもの頃、故事・ことわざ辞典で「中国古代の杞の国の人が、空が落ちてこないか心配した」ことが由来の言葉だと知り、「主語がでかいな」と思った。朝日も夕日も、集中して見ていると、逆の方向に動かないことが不思議に思えた。朝日は必ず昇り、夕日は必ず沈むのだ。宇宙の仕組みを知らない人が、二度と太陽が出てこなかったり、空が崩れたり、雨がやまなかったり、といった不安を抱えるのはまっとうなことなのではないか。自然の営みに対応することが生活のほとんどを占めていたであろう昔の人びとに思いを馳せた。

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朝日を待っていたら大雨に降られて、止んだころには反対側の空に大きな虹がかかっていた、という、よくできたできごとが最終日の朝に起きた。こんな虹は初めて見た。

独身だったころ、一人暮らししていた部屋は、住宅地の中にあるマンションの二階で、窓から空なんか見えなかった。今住んでいる家の窓からは広い空が見える。東京の冬の空はいつもさっぱり晴れて美しく、毎朝律儀に少しだけ感動する。モルディブの空に対して心を打たれるのも、ベクトルは同じだ。ただ東京の家で、朝日や夕日だけずっと見ているような時間がなかったから、モルディブで大感動することになっている。

モルディブに来たのは、何もせずのんびり過ごしたかったからだ。のんびりするために、平和で快適、北海道も沖縄もある日本から半日以上かけて飛行機に乗って、お金もたくさん払って、私は軽く狂っているのかもしれないと思わないこともない。

でも自分の住んでいる場所ではもう自分がやらなきゃいけないことがたくさんあって、それを打ち捨ててのんびりするのは難しい(私は絶対に今日から一週間は何もしないぞという強い心があればできるのかもしれないけど)。でもそれは社会の中に何らかの役割がある大人の端くれだから仕方ないことで、私は昔からそういう存在になりたかったんだよなと思った。そういうことを考えた旅行だった。

※追記

滞在中にモルディブ大統領が非常事態宣言を出した。結論から言えば旅行者には何の影響もなかった。

ホテルにちょっとした新聞みたいなものがあったので、なんとなく政情が安定していないことは知っていた(ただ記事が英語で書かれており構文が難しかったため、登場人物や事象はわかったものの誰と誰が対立関係にあるのかといったことは理解できなかった)。しかし、ホテルの方の話では、政府内でのできごとで市民やリゾートにはほとんど関係ないということで、非常事態宣言も親から来たLINEで知ったくらいだった。

「非常事態宣言」というのは、国連とかが公に「この地域は非常事態ですよ」という宣言を出すものだと思っていたが、独裁者であるところの大統領が発令し、集会を禁止するなどするような意味合いのものだった。だから安全だと言いたいわけではないが、例えば空港に銃を持った警官が詰めかけるようなことはなかった。しかし、国の中で大変なことが起きているのは事実なので、こんなときにリゾート気分を味わいに来ている私は何なのだろうと思わないこともなかった。

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ぶれたけど、夜中のモルディブ首都マーレの写真。船中から撮影。